ゆきナヤ(モダン仕様)を作った経緯
2015年5月12日 Magic; the Gathering コメント (4)※この記事は2015年2月末ごろ執筆したゴミ箱行きの記事です。
何事にも別れは付き物である。
そして、それは突然やってくるのだ。
誰にでも、自分の活動を誇示したいという欲はある。それは自らの生きた証を誰かの脳裏に刻む作業に他ならない。自分にとっては、それこそがMtGに復帰した4年間で築いてきた、生きた証左である。
わからん殺しのオンパレードで相手を困惑し、ヤギトークンに撲殺される人を大量発生させた、奇跡の勝率を誇る「ゆきポスト」しかり。
対戦相手に「それ(《サルーリの門番》のこと)《スラーグ牙》より強いっすね」と言わしめ、《迷路の終わり》より《門番》によるビートダウンのほうが勝ち星が多かった「門コントロール」しかり。
最速3ターン目6ドロー(《円環の賢者》に《高まる残虐性》からの《原初の狩人、ガラク》)からの高速《サイクロンの裂け目》《アクローマの記念碑》デスを押し付ける「親和エルフ」しかり。
最速3ターン目《原初の報奨》からの《境界なき領土》《ケッシグの狼の血》で圧殺する「ターボバウンティ」しかり。
ありとあらゆるクソデッキで環境に挑み続け、リストを載せ続けることも確かな足跡ではある。しかし、いかに強烈な《心の傷跡》印象を与えるか。それは確かに生き甲斐ではある。
かの長嶋茂雄は世界の王貞治と「記録の王、記憶の長嶋」と対比されているという。ショートゴロは無理やり奪い、サードフライは任せる。
記録より記憶に。
その生き様を見せつけることが、自分にとってのMtGなのだろう。
そんな自分が、人一倍躍起になったカードがある。おそらく、復帰後に「ゆき=電波デッキビルダー」としての道を確固たるものにしてくれたのは、このカードのおかげでもある。
MtGの活動も中途半端になった昨今、押し入れの底に「それ」は眠っていた。
周囲よりも大きめのデッキケースを使っていたのは、部屋が散らかっていようとそのデッキだけはすぐ見つけられるようにするためでもあった。
そのデッキケースから中身を取り出すこと、それは相手に自分のアイデンティティ、もっと言えば生きた証を示すことでもある。
「それ」の発表時、ごくわずかなプレイヤーのみが注目し、しかしトーナメントレベルに仕上げることができない状態が続いていた。
自分にとっては、発売日に4枚揃えた当初からの伴侶だった。世間でも、やがて相性のいいカードが増えるに従って頭角を現し、少しずつ、しかし着実にTier1への道を切り拓いていった。
かくいう自分も、トップメタに勝てる形、コンボ的な形、勝ち筋の補助的な形、無理やりタッチした形、思いつく限り様々なアーキタイプに導入を試みた。実際にデッキの形にまとめ、大会に送り出したデッキタイプは両手の指では明らかに足りない。
1年半、使い続けた。それしか使わなかった。たとえメタ的に厳しくなっても、何らかの形で使い続けた。いつしかそれの所有枚数は10枚を超えた。それでも足りないぐらいだった。スタン落ちのその日のその日まで、使い続けた。
引退後も主戦場をモダンに移し、強豪ひしめくそのフォーマットで、いつからかトップメタとして君臨し続けた。しかし度重なるプールの拡大は、排他性を生む。その排他性が行き過ぎたものであれば、粛清される。
そう、「それ」は今年1月19日、粛清された。
《出産の殻/Birthing Pod》(NPH)。
モダンでも使い続けた「それ」は、あっけなく自分の前からも姿を消した。
【0:ランチはフレッシュネス固定で】
というわけで、モダンというフォーマットがもはや自分の中で消失したと感じてからはや1ヶ月。
最近のプレイ人口の増加を受け、一刻館宇都宮店でも「サタデー・ランチ・マジック」という大会が毎週のように催されるようになっていた。
しかし、今の自分には、モダンに参加する術(デッキ)がない。
たとえ当日の予定が急になくなって、店へ向かう用事が別にあったところで、戦う武器がなくては生き残れないどころか参加権すらない。
というわけで、「モダンの大会があるんだっけ、ふーん」程度の感想しか抱かなかった。
当日の、朝までは。
《出産の殻》が禁止された理由を公式に求めると、下記のようになる。
http://mtg-jp.com/publicity/0012018/
かいつまんで言えば、「流行りすぎ。キッチンからサイ呼べると他のクリーチャーデッキを組む気が失せるからお前禁止な」ということだ。客観的に考えればさもありなん、といったところだが、他のクリーチャーデッキって何なんだ、ということの回答がない。他2種と比べて、疑問は残る。
ともあれ、禁止は禁止である。使うことは許されない。
大切な人が遠くへ旅立ってしまったような気分といえば近いのだろうか。
寂寥感以外の何者でもなかった感情は、
ふとした瞬間(当日の朝にご飯を食べているとき)に、
前触れなく、「怒り」に変わった。
禁止した張本人(=《包囲サイ》その他)に対して、愛と怒りと悲しみの入り交じった感情をぶつけたくなってしまった。
仇討ちをしなければならない。それが、残された者の使命である。そう感じていた。
【1:環境理解】
遅かれ早かれ禁止になっていただろう、とは言われていたが、今回《殻》が禁止された直接的な要因は《包囲サイ/Siege Rhino》である。
単体でも十二分なカードパワーを誇るファッティは、《出産の殻》とのシナジーが極悪すぎた。具体的には、3マナ圏の優秀なクリーチャー、具体的には《台所の嫌がらせ屋》《刃の接合者》あたりからの接続が良すぎるためである。加えて、ライフゲイン能力も、《殻》とかみ合っていた。
理論上はわかりきっている。リソースをあまり使わずこんな組み合わせでゲームができるなら、他のビートダウン戦略をとる理由はなくなってしまう。
しかし、それは理論の話だ。この感情は、どこかにぶつけなければ、行きどころをなくしてしまう。
そう思いながら、プロツアーの結果を眺めてみた。
環境に溢れんばかりのアブザン・ジャンク(使用率3割近く)。
そして、ほぼ必ず4枚積まれた《包囲サイ》。
中には、こいつのためだけに色をタッチしていると見られるデッキもあった。
お前だ、お前なんだな、《包囲サイ》。この怒りを受け止めてくれるのは。
せめて粉々に粉砕してやる。
それが、《出産の殻》と添い遂げる覚悟だった男の決意である。
【2:出発地点】
アブザン・ジャンクに勝つ。それが今回のデッキを作る上での第一条件になる。少なくとも、アブザン・ジャンクに4:6でも不利がつくようなデッキは、デッキではない。
アブザン・ジャンクは、下記の流れで勝ちを作るデッキである。
(1)軽量手札破壊で相手のペースを崩す
(2)除去を打ちながら消耗戦に持ち込み、《ヴェールのリリアナ》でマウントを取る
(3)《タルモゴイフ》《包囲サイ》《黄金牙、タシグル》等優秀なクロックを用意して殴り勝つ
(4)アドバンテージは《未練ある魂》が稼いでくれる
無論すべてがこれに該当するわけではないが、概ねの流れは上記の通りだ。ならば、上記の勝ち筋をつぶせる構成を取ればいい。
(1)手札破壊に耐性を持たせる
言うまでもなく、《ロクソドンの強打者》の出番だ。特に相手のキーカードである《ヴェールのリリアナ》に対して圧倒的な制圧力を誇る。単純にサイズも大きく、クロックとして見込める。
《萎れ葉のしもべ》《貪欲なベイロス》もかなり強い。マッチアップ的にライフ獲得がそこまで強いとは思えないので、打点アップのために《萎れ葉のしもべ》を選択する。
(2)除去への耐性、《リリアナ》耐性を持たせる
緑黒相手に絶好のクリーチャーがいる。前回は《絡み根の霊》だったが、《復活の声》が筆頭だ。追放除去でなければ1:1交換は取れない。-2能力の返しに殴るだけでリリアナは落ちる。
もう一つは、《ミラディンの十字軍》。除去されなければ速やかにゲームを終わらせてくれる打点を叩き出す、騎士の皮を被った白い悪魔だ。プロテクションもアブザン退治にお誂え向きと言える。打点上昇手段があれば2~3回のアタックで相手は落ちる。
(3)優秀なクロックを封殺する除去の搭載
必要なのはテンポかつ確実な除去だ。ここでは《流刑への道》《四肢切断》を採用する。どちらも1マナと構えやすく、かつタフネス5を落とせる優秀な除去だ。
ライフ損失や土地の提供は痛いが、速やかにゲームを終わらせるプランなら問題はない。
(4)《未練ある魂》を乗り越える
これが、壁である。
白緑というカラーではここが問題になる。《未練ある魂》への有効打があまりないのだ。このカードだけ考えれば《暴風》《光と影の剣》《戦争と平和の剣》などは確かに対策にはなるが、そんな専用カードにスロットを割いていられるほどモダンは甘くない。
一番の対策は黒をタッチし、こちらも《未練ある魂》を使うことなのだが、その事実が、いかにこのカードが強力かを物語っている。そもそも、アブザンに勝つためにアブザンにするなど、ミイラ取りがミイラもいいところだ。
赤を加えれば、《オキシド砦の英雄》《嵐の息吹のドラゴン》《雷口のヘルカイト》なども候補に挙がる。しかしやや重く、除去のいい的であり、決定打とは言いづらい。
《未練ある魂》を対策しながら、他の手段にも勝て、できれば「引いたら勝てる」ような、そんな都合のいいカードがあるわけがない……と、思った。ここは無難に《光と影の》……
そこまで考えて、モダンのカードを整理していた。当時、スタンダードで触れたカードたちだ。懐かしい。当然そこには《出産の殻》と、その相棒が――
いた。
《未練ある魂》をものともせず、引いたら勝てる、そんなカードが、そこにはあった。
というわけで、デッキが完成した。
《忌むべき者のかがり火》。カセルである
スタンダードの環境を変えた災厄であり、害悪であり、当時《未練ある魂》が活躍しきれなかった要因となったカードである。(多分一番の原因は《雷口のヘルカイト》なんだろうけど)
これなら、《未練ある魂》トークンも吹っ飛ばせるし、トップすれば《リリアナ》や他のクリーチャーごと一掃できる。
そして、《ケッシグの狼の地》。隙は大きいが、トランプルによる突破が可能になるのは、《ロクソドンの強打者》を採用しているこのデッキにとっては非常に大きい。《十字軍》とのシナジーも非常に良い。
デッキの細部だが、基本的には「賛美』+《十字軍》という勝ちパターンに持っていく構成にしてある。固め引きすると弱いマナクリは最低限に、その代わり2マナを厚めに取って緩和する。《かがり火》はいつ引いてもいいように赤マナを多めに確保。ライフ損失は《台所の嫌がらせ屋》+《ガヴォニーの居住区》がなんとかしてくれる。トップデック勝負も見越して、《遍歴の騎士、エルズペス》を1枚採用。《十字軍》が飛べば大体のデッキはイチコロである。
見ていろ、アブザン・ジャンク。
お前たちの隆盛は、今日までだ。
【3:実戦】
ポッドレスポッド、記念すべき緒戦である。
直前までやっぱ黒タッチしてタシグルと未練入れた方がデッキ100倍強いからやっぱタッチ黒にしようという現実的な考えカード選択に時間をかけていたせいで、一人回しすらできなかったアルドノア・ゼロ見て熱くなってたし。
調整の精度は問題ではない。重要なのは、殺意だ。サイを殺す、その殺意なのだ。
【Round 1】VS アブザン「発掘」
なんか違うが、まぁいいだろう。
G1:相手は《ゾンビの横行》から《ゴルガリの墓トロール》をディスカードしてゾンビを呼ぶ。そういえばお前、《殻》の代わりに帰ってきたな。殺す。殺意に目覚めた《ミラディンの十字軍》が賛美のバックアップを受けて順当に殴り勝ち。
G2:《血の公証人》などでアドを稼ごうという布陣に。生物を対処され殴り掛かれないところに、颯爽と降ってくる《忌むべき者のかがり火》。相手のクリーチャーを一網打尽にした後は、ゆっくりと《十字軍》で殴り殺す。
○○
「メイン《十字軍》やばいっすわ」と相手の弁。
お前は悪くない。悪いのは、《包囲サイ》だ。恨むなら奴を恨め。
【Round 2】VS BG《死の雲》ビッグマナ
やっぱりなんか違うが、まぁいいだろう。
G1:相手《桜族の長老》からマナ加速。途中で《恐血鬼》を捨てたりしてくる。デスクラウドか……。ということはBG。ファッキンBGとは違うが、これはこれで憎き宿敵と認識した。というわけで、殺意に目覚めた《十字軍》が蹂躙。途中《虐殺のワーム》で《十字軍》が消えるが、《台所の嫌がらせ屋》が《ガヴォニーの居住区》の援護を受ける体制ができており、さらには手札に2体目の《十字軍》。負けるはずがなかった。
G2:《貴族の教主》→《ミラディンの十字軍》。《小悪疫》→《萎れ葉のしもべ》。相手は死ぬ。
○○
「メイン《十字軍》マジ無理っす。トラウマになりそうです」
お前は悪くない。悪いのは《包囲サイ》だ。国(ゴルガリ団)に帰るんだな。お前にも家族(ゾンビ)がいるだろう。
【Round 3】VS 青単マーフォーク
やっぱりなんか違うが、……って違い過ぎだろ!
G1:こちら1マリの上、相手《薬瓶》スタート。《群れ魔道士》を引いてきて、割る頃には《幻影の像》《メロウの騎兵》と展開されて、覆せず。
G2:相手が《広がりゆく海》をこっちにエンチャントしている間に、《かがり火》が炸裂して、相手の場に《波使い》本体しか残らなかったので押し込んで勝ち。
G3:手痛い土地2ストップ。相手《銀エラ》1体の間に《窒息》を貼って封殺を図るも、相手が《魂の洞窟》を2連打してきて《メロウ》降臨。もたついている間に《広がりゆく海》で圧殺。
×○×
青単を想定できていなかった。この結果も当然である。
【4:結果】
ポッドレスポッド:ナヤ、緒戦は2-1。
BG系相手にはやはり無双する《十字軍》の性能が異常だった。方向性はあまり間違っていないようだ。
しかし、モダンはアブザン・ジャンクだけではない。双子やアミュレット・ブルームを代表するコンボデッキ、クロックパーミッションやヘビーコントロール、バーン、果てはZooなどの高速アグロ……。様々なデッキが存在する。
それでも、盆百のデッキを切り捨てるアブザン・ジャンクは今後も増えていくだろう。「とりあえずトップメタのデッキ使ってKPでウハウハ言わせたるわ」という志の弱いアブザン使いを狩る。
ポッドレスポッドの旅は、今始まったばかりなのだ。
何事にも別れは付き物である。
そして、それは突然やってくるのだ。
誰にでも、自分の活動を誇示したいという欲はある。それは自らの生きた証を誰かの脳裏に刻む作業に他ならない。自分にとっては、それこそがMtGに復帰した4年間で築いてきた、生きた証左である。
わからん殺しのオンパレードで相手を困惑し、ヤギトークンに撲殺される人を大量発生させた、奇跡の勝率を誇る「ゆきポスト」しかり。
対戦相手に「それ(《サルーリの門番》のこと)《スラーグ牙》より強いっすね」と言わしめ、《迷路の終わり》より《門番》によるビートダウンのほうが勝ち星が多かった「門コントロール」しかり。
最速3ターン目6ドロー(《円環の賢者》に《高まる残虐性》からの《原初の狩人、ガラク》)からの高速《サイクロンの裂け目》《アクローマの記念碑》デスを押し付ける「親和エルフ」しかり。
最速3ターン目《原初の報奨》からの《境界なき領土》《ケッシグの狼の血》で圧殺する「ターボバウンティ」しかり。
ありとあらゆる
かの長嶋茂雄は世界の王貞治と「記録の王、記憶の長嶋」と対比されているという。ショートゴロは無理やり奪い、サードフライは任せる。
記録より記憶に。
その生き様を見せつけることが、自分にとってのMtGなのだろう。
そんな自分が、人一倍躍起になったカードがある。おそらく、復帰後に「ゆき=
MtGの活動も中途半端になった昨今、押し入れの底に「それ」は眠っていた。
周囲よりも大きめのデッキケースを使っていたのは、部屋が散らかっていようとそのデッキだけはすぐ見つけられるようにするためでもあった。
そのデッキケースから中身を取り出すこと、それは相手に自分のアイデンティティ、もっと言えば生きた証を示すことでもある。
「それ」の発表時、ごくわずかなプレイヤーのみが注目し、しかしトーナメントレベルに仕上げることができない状態が続いていた。
自分にとっては、発売日に4枚揃えた当初からの伴侶だった。世間でも、やがて相性のいいカードが増えるに従って頭角を現し、少しずつ、しかし着実にTier1への道を切り拓いていった。
かくいう自分も、トップメタに勝てる形、コンボ的な形、勝ち筋の補助的な形、無理やりタッチした形、思いつく限り様々なアーキタイプに導入を試みた。実際にデッキの形にまとめ、大会に送り出したデッキタイプは両手の指では明らかに足りない。
1年半、使い続けた。それしか使わなかった。たとえメタ的に厳しくなっても、何らかの形で使い続けた。いつしかそれの所有枚数は10枚を超えた。それでも足りないぐらいだった。スタン落ちのその日のその日まで、使い続けた。
引退後も主戦場をモダンに移し、強豪ひしめくそのフォーマットで、いつからかトップメタとして君臨し続けた。しかし度重なるプールの拡大は、排他性を生む。その排他性が行き過ぎたものであれば、粛清される。
そう、「それ」は今年1月19日、粛清された。
《出産の殻/Birthing Pod》(NPH)。
モダンでも使い続けた「それ」は、あっけなく自分の前からも姿を消した。
【0:ランチはフレッシュネス固定で】
というわけで、モダンというフォーマットがもはや自分の中で消失したと感じてからはや1ヶ月。
最近のプレイ人口の増加を受け、一刻館宇都宮店でも「サタデー・ランチ・マジック」という大会が毎週のように催されるようになっていた。
しかし、今の自分には、モダンに参加する術(デッキ)がない。
たとえ当日の予定が急になくなって、店へ向かう用事が別にあったところで、戦う武器がなくては生き残れないどころか参加権すらない。
というわけで、「モダンの大会があるんだっけ、ふーん」程度の感想しか抱かなかった。
当日の、朝までは。
《出産の殻》が禁止された理由を公式に求めると、下記のようになる。
http://mtg-jp.com/publicity/0012018/
かいつまんで言えば、「流行りすぎ。キッチンからサイ呼べると他のクリーチャーデッキを組む気が失せるからお前禁止な」ということだ。客観的に考えればさもありなん、といったところだが、他のクリーチャーデッキって何なんだ、ということの回答がない。他2種と比べて、疑問は残る。
ともあれ、禁止は禁止である。使うことは許されない。
大切な人が遠くへ旅立ってしまったような気分といえば近いのだろうか。
寂寥感以外の何者でもなかった感情は、
ふとした瞬間(当日の朝にご飯を食べているとき)に、
前触れなく、「怒り」に変わった。
禁止した張本人(=《包囲サイ》その他)に対して、愛と怒りと悲しみの入り交じった感情をぶつけたくなってしまった。
仇討ちをしなければならない。それが、残された者の使命である。そう感じていた。
【1:環境理解】
遅かれ早かれ禁止になっていただろう、とは言われていたが、今回《殻》が禁止された直接的な要因は《包囲サイ/Siege Rhino》である。
単体でも十二分なカードパワーを誇るファッティは、《出産の殻》とのシナジーが極悪すぎた。具体的には、3マナ圏の優秀なクリーチャー、具体的には《台所の嫌がらせ屋》《刃の接合者》あたりからの接続が良すぎるためである。加えて、ライフゲイン能力も、《殻》とかみ合っていた。
理論上はわかりきっている。リソースをあまり使わずこんな組み合わせでゲームができるなら、他のビートダウン戦略をとる理由はなくなってしまう。
しかし、それは理論の話だ。この感情は、どこかにぶつけなければ、行きどころをなくしてしまう。
そう思いながら、プロツアーの結果を眺めてみた。
環境に溢れんばかりのアブザン・ジャンク(使用率3割近く)。
そして、ほぼ必ず4枚積まれた《包囲サイ》。
中には、こいつのためだけに色をタッチしていると見られるデッキもあった。
お前だ、お前なんだな、《包囲サイ》。この怒りを受け止めてくれるのは。
せめて粉々に粉砕してやる。
それが、《出産の殻》と添い遂げる覚悟だった男の決意である。
【2:出発地点】
アブザン・ジャンクに勝つ。それが今回のデッキを作る上での第一条件になる。少なくとも、アブザン・ジャンクに4:6でも不利がつくようなデッキは、デッキではない。
アブザン・ジャンクは、下記の流れで勝ちを作るデッキである。
(1)軽量手札破壊で相手のペースを崩す
(2)除去を打ちながら消耗戦に持ち込み、《ヴェールのリリアナ》でマウントを取る
(3)《タルモゴイフ》《包囲サイ》《黄金牙、タシグル》等優秀なクロックを用意して殴り勝つ
(4)アドバンテージは《未練ある魂》が稼いでくれる
無論すべてがこれに該当するわけではないが、概ねの流れは上記の通りだ。ならば、上記の勝ち筋をつぶせる構成を取ればいい。
(1)手札破壊に耐性を持たせる
言うまでもなく、《ロクソドンの強打者》の出番だ。特に相手のキーカードである《ヴェールのリリアナ》に対して圧倒的な制圧力を誇る。単純にサイズも大きく、クロックとして見込める。
《萎れ葉のしもべ》《貪欲なベイロス》もかなり強い。マッチアップ的にライフ獲得がそこまで強いとは思えないので、打点アップのために《萎れ葉のしもべ》を選択する。
(2)除去への耐性、《リリアナ》耐性を持たせる
緑黒相手に絶好のクリーチャーがいる。前回は《絡み根の霊》だったが、《復活の声》が筆頭だ。追放除去でなければ1:1交換は取れない。-2能力の返しに殴るだけでリリアナは落ちる。
もう一つは、《ミラディンの十字軍》。除去されなければ速やかにゲームを終わらせてくれる打点を叩き出す、騎士の皮を被った白い悪魔だ。プロテクションもアブザン退治にお誂え向きと言える。打点上昇手段があれば2~3回のアタックで相手は落ちる。
(3)優秀なクロックを封殺する除去の搭載
必要なのはテンポかつ確実な除去だ。ここでは《流刑への道》《四肢切断》を採用する。どちらも1マナと構えやすく、かつタフネス5を落とせる優秀な除去だ。
ライフ損失や土地の提供は痛いが、速やかにゲームを終わらせるプランなら問題はない。
(4)《未練ある魂》を乗り越える
これが、壁である。
白緑というカラーではここが問題になる。《未練ある魂》への有効打があまりないのだ。このカードだけ考えれば《暴風》《光と影の剣》《戦争と平和の剣》などは確かに対策にはなるが、そんな専用カードにスロットを割いていられるほどモダンは甘くない。
一番の対策は黒をタッチし、こちらも《未練ある魂》を使うことなのだが、その事実が、いかにこのカードが強力かを物語っている。そもそも、アブザンに勝つためにアブザンにするなど、ミイラ取りがミイラもいいところだ。
赤を加えれば、《オキシド砦の英雄》《嵐の息吹のドラゴン》《雷口のヘルカイト》なども候補に挙がる。しかしやや重く、除去のいい的であり、決定打とは言いづらい。
《未練ある魂》を対策しながら、他の手段にも勝て、できれば「引いたら勝てる」ような、そんな都合のいいカードがあるわけがない……と、思った。ここは無難に《光と影の》……
そこまで考えて、モダンのカードを整理していた。当時、スタンダードで触れたカードたちだ。懐かしい。当然そこには《出産の殻》と、その相棒が――
いた。
《未練ある魂》をものともせず、引いたら勝てる、そんなカードが、そこにはあった。
というわけで、デッキが完成した。
「ポッドレスポッド:ナヤ」初期型
土地 23
2《吹きさらしの荒野/Windswept Heath》
2《樹木茂る山麓/Wooded Foothills》
2《乾燥台地/Arid Mesa》
1《寺院の庭/Temple Garden》
1《踏み鳴らされる地/Stomping Ground》
1《聖なる鋳造所/Sacred Foundry》
1《燃え柳の木立ち/Grove of the Burnwillows》
3《剃刀境の茂み/Razorverge Thicket》
2《地平線の梢/Horizon Canopy》
2《活発な野生林/Stirring Wildwood》
2《ガヴォニーの居住区/Gavony Township》
1《ケッシグの狼の地/Kessig Wolf Run》
1《平地/Plains》
1《森/Forest》
1《山/Mountain》
クリーチャー 27
4《貴族の教主/Noble Hierarch》
1《極楽鳥/Birds of Paradise》
4《復活の声/Voice of Resurgence》
3《クァーサルの群れ魔道士/Qasali Pridemage》
2《漁る軟泥/Scavenging Ooze》
2《台所の嫌がらせ屋/Kitchen Finks》
4《ロクソドンの強打者/Loxodon Smiter》
4《ミラディンの十字軍/Mirran Crusader》
3《萎れ葉のしもべ/Wilt-Leaf Liege》
その他 10
4《流刑への道/Path to Exile》
3《四肢切断/Dismember》
2《忌むべき者のかがり火/Bonfire of the Damned》
1《遍歴の騎士、エルズペス/Elspeth, Knight-Errant》
サイドボード 15
3《スレイベンの守護者、サリア/Thalia, Guardian of Thraben》
4《コーの火歩き/Kor Firewalker》
3《窒息/Choke》
2《安らかなる眠り/Rest in Peace》
1《天界の粛清/Celestial Purge》
1《精霊への挑戦/Brave the Elements》
1《忌むべき者のかがり火/Bonfire of the Damned》
《忌むべき者のかがり火》。
スタンダードの環境を変えた災厄であり、害悪であり、当時《未練ある魂》が活躍しきれなかった要因となったカードである。(多分一番の原因は《雷口のヘルカイト》なんだろうけど)
これなら、《未練ある魂》トークンも吹っ飛ばせるし、トップすれば《リリアナ》や他のクリーチャーごと一掃できる。
そして、《ケッシグの狼の地》。隙は大きいが、トランプルによる突破が可能になるのは、《ロクソドンの強打者》を採用しているこのデッキにとっては非常に大きい。《十字軍》とのシナジーも非常に良い。
デッキの細部だが、基本的には「賛美』+《十字軍》という勝ちパターンに持っていく構成にしてある。固め引きすると弱いマナクリは最低限に、その代わり2マナを厚めに取って緩和する。《かがり火》はいつ引いてもいいように赤マナを多めに確保。ライフ損失は《台所の嫌がらせ屋》+《ガヴォニーの居住区》がなんとかしてくれる。トップデック勝負も見越して、《遍歴の騎士、エルズペス》を1枚採用。《十字軍》が飛べば大体のデッキはイチコロである。
見ていろ、アブザン・ジャンク。
お前たちの隆盛は、今日までだ。
【3:実戦】
ポッドレスポッド、記念すべき緒戦である。
直前まで
調整の精度は問題ではない。重要なのは、殺意だ。サイを殺す、その殺意なのだ。
【Round 1】VS アブザン「発掘」
なんか違うが、まぁいいだろう。
G1:相手は《ゾンビの横行》から《ゴルガリの墓トロール》をディスカードしてゾンビを呼ぶ。そういえばお前、《殻》の代わりに帰ってきたな。殺す。殺意に目覚めた《ミラディンの十字軍》が賛美のバックアップを受けて順当に殴り勝ち。
G2:《血の公証人》などでアドを稼ごうという布陣に。生物を対処され殴り掛かれないところに、颯爽と降ってくる《忌むべき者のかがり火》。相手のクリーチャーを一網打尽にした後は、ゆっくりと《十字軍》で殴り殺す。
○○
「メイン《十字軍》やばいっすわ」と相手の弁。
お前は悪くない。悪いのは、《包囲サイ》だ。恨むなら奴を恨め。
【Round 2】VS BG《死の雲》ビッグマナ
やっぱりなんか違うが、まぁいいだろう。
G1:相手《桜族の長老》からマナ加速。途中で《恐血鬼》を捨てたりしてくる。デスクラウドか……。ということはBG。ファッキンBGとは違うが、これはこれで憎き宿敵と認識した。というわけで、殺意に目覚めた《十字軍》が蹂躙。途中《虐殺のワーム》で《十字軍》が消えるが、《台所の嫌がらせ屋》が《ガヴォニーの居住区》の援護を受ける体制ができており、さらには手札に2体目の《十字軍》。負けるはずがなかった。
G2:《貴族の教主》→《ミラディンの十字軍》。《小悪疫》→《萎れ葉のしもべ》。相手は死ぬ。
○○
「メイン《十字軍》マジ無理っす。トラウマになりそうです」
お前は悪くない。悪いのは《包囲サイ》だ。国(ゴルガリ団)に帰るんだな。お前にも家族(ゾンビ)がいるだろう。
【Round 3】VS 青単マーフォーク
やっぱりなんか違うが、……って違い過ぎだろ!
G1:こちら1マリの上、相手《薬瓶》スタート。《群れ魔道士》を引いてきて、割る頃には《幻影の像》《メロウの騎兵》と展開されて、覆せず。
G2:相手が《広がりゆく海》をこっちにエンチャントしている間に、《かがり火》が炸裂して、相手の場に《波使い》本体しか残らなかったので押し込んで勝ち。
G3:手痛い土地2ストップ。相手《銀エラ》1体の間に《窒息》を貼って封殺を図るも、相手が《魂の洞窟》を2連打してきて《メロウ》降臨。もたついている間に《広がりゆく海》で圧殺。
×○×
青単を想定できていなかった。この結果も当然である。
【4:結果】
ポッドレスポッド:ナヤ、緒戦は2-1。
BG系相手にはやはり無双する《十字軍》の性能が異常だった。方向性はあまり間違っていないようだ。
しかし、モダンはアブザン・ジャンクだけではない。双子やアミュレット・ブルームを代表するコンボデッキ、クロックパーミッションやヘビーコントロール、バーン、果てはZooなどの高速アグロ……。様々なデッキが存在する。
それでも、盆百のデッキを切り捨てるアブザン・ジャンクは今後も増えていくだろう。「とりあえずトップメタのデッキ使ってKPでウハウハ言わせたるわ」という志の弱いアブザン使いを狩る。
ポッドレスポッドの旅は、今始まったばかりなのだ。
コメント
かがり火=カセル説ほんとすき
ゴミ箱直行させなくてよかったです!
>VMさん
ハンデスされなきゃほぼ無敵、ただし稲妻は勘弁な!
かがり火は、こ↑こ↓でトップすれば勝つし、ま、多少はね?